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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1486号 判決

被告人

伊藤春雄

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

弁護人大池龍夫控訴趣意第一点に付いて。

裁判所が実体判決をするには、起訴に係る公訴事実、延いては其の訴因と罰條とに拘束されるものであり、若し裁判所が起訴に係る訴因と罰條とを以てしては有罪となし難く、其の他の訴因罰條を適当と考えるに至つたならば訴因、罰條の変更、追加を命じるべきであつて其の手続を経ないで、起訴に係る以外の訴因と罰條で有罪の判決を言渡せば茲に裁判所は審判の請求を受けない事件について判決をした違法を免れないこととなる。然れども犯罪の日時夫れ自体は訴因と謂うべきでなく、犯罪の場所、方法と相俟つて罪となるべき事実を特定し訴因の明示に資せられるに過ぎないが故に特定の罪となるべき事実が同一である限り、其の犯罪の日時の如きは訴因に何等の影響を与えるものでなく、從て裁判所が起訴に係る犯罪の日時に付、之が変更、訂正を命ずるの手続を経ないで此の点に於てのみ、起訴と異る認定の下に判決をしたからとて、之を捉え、審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるものとは謂い得ない。今之を本件について観ると原裁判所が起訴状記載の犯罪の日時に付何等之が変更訂正の手続を経ないで之と異る犯罪の日時を原判決で認定したことは洵に所論の通りであるが、原判決が認定した罪となるべき事実は、公訴事実の同一性延いては其の訴因及罰條の点に於て孰れも何等異るところがないから、原裁判所の右措置に所論の違法が存しないことは曩に説明したところに照し明らかであつて更に縷説の要あるを認めない。故に論旨は理由がない。

(弁護人大池龍夫の控訴趣意第一点)

原判決は審判の請求を受けない事件に付て判決をした違法がある。

即ち原判決は犯罪事実として「被告人は昭和二十四年五月六日頃津島市大字大政町四丁目加藤ますへ方にて同人よりそれが賍物たる情を知り乍ら男物紺絣袷着物等衣類合計四十餘点を代金一万八千五百円にて買受けて賍物故買を爲したものである」と判示して居るけれども本件起訴状の公訴事実に依れば犯行の日時は昭和二十四年五月五日頃と記載されてあつて原判決の認定した犯行日時とは相違して居るのである。

原審訴訟手続に於ては右起訴状記載の日時は何等訂正された形跡はないのであるから右訂正なくして原判決が犯行の日時を変更して前記の樣に犯罪日時を認定したのは延ひて審判の請求を受けない事件に付て判決をした事に帰着するのであつて此の点に於て原判決は到底破毀を免れないと信ずる。

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